政府情報システム調達に関する提言「ベンダーロックインから対話による価値共創へ」

政府情報システムの1者応札と囲い込みの実態

5月26日の日経新聞記事では「会計検査院は26日、政府が2018年度に行った情報システムの競争契約のうち7割が1事業者のみの応札だったと発表した。検査院は、受注したIT(情報技術)企業が独自仕様のシステムを開発し、他企業の参入を難しくするベンダーロックインの懸念を指摘」と報じている。

政府の情報システム「1者応札」7割 霞が関DX阻む: 日本経済新聞 (nikkei.com)

さらに、6月5日の日経新聞記事では「1者のみの入札では競争原理が働かず、価格の高止まりを招きかねない。検査院は、既存業者以外の業者の参入による競争性向上を図ることが必要と指摘している。」とも。

政府の情報システム「囲い込み」実態 公取委が調査へ: 日本経済新聞 (nikkei.com)

競争契約と随意契約の適材適所

果たして1者応札や随意契約が「悪」で複数者応札や競争契約が「善」なのか、と違和感がふつふつと湧き上がる。

確かに、情報システムの初期開発時は、競争入札等の公平、公正な競争環境により、コスト対効果に優れ、セキュリティ等しっかりリスク対応し、利便性等の多大な効果を実現する調達先を選定すべきである。

しかしながら、ひとたびベンダーとの価値共創の業務委託契約が開始されれば、以降は、政府職員とベンダーが同じ目的を共有するイコールパートナーシップによる協調関係、すなわち、国民等ステークホルダーへのデジタル活用による業務・システム価値を創出する生態系(エコシステム)に共に取り組むビジネスパートナーであるべきだと思う。それが、国民からお預かりした大切な税金を最大限有効活用して、国民等ステークホルダーへ最大価値を創出することだと思うからである。

政府職員とベンダーとの「対話」による戦略的随意契約関係の重要性

この際重要となるのは、職員が要件定義書を提示してベンダーが提案書を提出するといったリモートな一方的なコミュニケーションではなく、政府職員とベンダーとの対等な立場に基づく「対話」である。

初期開発を応札したベンダーとは、まずは技術的対話により職員の要件定義とベンダーの解決策の提案についてとことん議論し、プロジェクト計画について対話する。プロジェクト実施中は適時に進捗状況や課題等について対話する。最後にプロジェクト終了時に計画通りに職員およびベンダーがそれぞれの役割をしっかり果たしたか、その結果業務成果を発揮することができたか、課題は何か、課題への対応は可能か、対等な立場で議論(相互評価)する。

これらの対話により、後続の改修や運用・保守などの業務委託を引き続き進めることが最適であると合意すれば、後続プロジェクトを戦略的に当該ベンダーと随意契約する。合意が難しいようであれば、当該ベンダーとの関係をEXITして競争入札に舵を切る。

この際重要なのは、職員側のスキルと業務・システムのオーナーシップ(熱意)である。制度・業務部門職員の業務分析・業務プロセス設計スキルによる要件定義を主体的に行い、情報システム部門職員のアーキテクチャ設計スキル、UI/EXスキル、プロジェクトマネジメントスキル等によるベンダー提案について正しく評価し指示・コメントをする効果的な対話を行う。

ベンダーサイドについても、これまで、提示された要件に従って対応するのはもちろんのこと、それだけでは価値創出が不十分であり、EXIT判断されるリスクがある。そのため、まだ気がつかない潜在的な課題を見つけ出し、その対応策を積極的に提案するような、まさにビジネスパートナーとしての役割を果たしていくことが重要である。

このように、初期開発では競争入札による調達が基本であるが、改修や運用・保守局面では競争入札か戦略的随意契約かを職員とベンダー間の対話を経て判断する。

情報システムのライフサイクルにおける調達戦略

なお、システムを一定期間安定運用していても、内外の環境変化や技術の陳腐化の進展、サポート切れ対応などの理由により、制度・業務企画、システム企画、業務・システム整備、業務・システムの改修・運用・保守の一連の情報システムのライフサイクルの中で、上流に遡って更改や再構築(トランスフォーメーション)をする必要が出てくる。

毎年の改修や運用・保守契約の更新はこのような生態系パートナーとの継続・EXIT判断が行われるべきであるが、5年程度ごとの基盤システム更改、システム再構築等(DX)、制度や業務の抜本的改革(BPR)など、改革の度合いが大きいほど初期開発時と同様に、広く競争入札等により、公平・公正で最大価値を創出する調達とすべきである。

結論

政府調達の1者応札や随意契約が必ずしも絶対的な「悪」ではない。

初期開発において競争入札を経て応札したベンダーと共に、目的を共有する対等なパートナーシップに基づく協調関係により、整備された生態系を構成する情報システムについては、その改修や運用・保守などの後続業務について、引き続き戦略的随意契約により価値共創を持続させることがむしろ重要である。

現状の7割が仕方なしに一者応札や随意契約となっている受動的対応から、対話に基づき価値創出を目指し積極的に同じベンダーに業務委託を継続する戦略的随意契約への改革が必要である。

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