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地球温暖化をこれ以上進めない「地球に優しいデジタル社会形成価値の創出」へ
英国グラスゴーにおける国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26) が11月13日に終了しました。
1.5℃目標の公式文書への明記、先進国から途上国への資金支援を2025年までに毎年1000億ドルまで増やす、先進国から途上国への技術移転等の方法で複数の国が協力して排出削減する制度(ルール)の整備等が宣言されました。
2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、地球的規模で脱炭素(地球温暖化ガス排出ゼロ)に取り組む必要があります。
これを実現するためには、CO2等の温室効果ガス排出量の削減対策を積み上げるような対応では不可能であり、脱炭素技術のイノベーションやデジタルを活用した脱炭素DX(グリーンDX:GDX)などの抜本的な改革が必要になります。まさに、脱炭素社会に向けたゲームチェンジが求められます。
今後、大量生産・大量消費の経済モデルから循環型生産消費のモデルに移行し、モノからサービスへとますますシフトしていくでしょう。企業の達成目標も株主利益重視から地球環境や社会といったその他のステークホルダーを大切にするようになってきます。利用エネルギーも化石由来から自然由来のエネルギーへシフトし、より少ないCO2等排出でより大きな効果(価値)を創出するように、炭素生産性を高める必要があります。
これを受け、経営者は社会や地球環境といったステークホルダーへの価値創出を中心的な目標にして、炭素生産性の最大化にむけ自律的に判断していくことが重要になってきます。
CO2排出を伴うビジネスの効果実現をより大きく、ビジネス活動によるCO2排出リスクや排出量をより少なくといった、効果(ビジネス価値創出)とリスク・資源消費(CO2排出の適切なバランスをとることが、経営者の重要な役割だと思います。
そのためには、脱炭素社会に向け、CO2の排出量が少ない地球にやさしいデジタル社会形成を進める必要があり、そのためのグリーンDX戦略(GDX戦略)を策定・実行し、GDXガバナンス態勢を整備・運用すべきです。
GDX戦略は、個々の企業の経営環境により異なってくると思われます。例えば、情報システム等の電力需要の大きな部分を再生可能エネルギーで賄うような低炭素クラウドの活用、ビジネスプロセスについて森林資源を浪費しないペーパーレスや人の移動を伴わないユーザー体験への変革、ビジネスのサーキュラーエコノミー化、製品からサービスへシフトするシェアリングエコノミー化、ビジネス活動に必要なエネルギーについて再生可能エネルギーを優先的に利用するエネルギーシフト、さらにはどうしても必要となる排出量を補完するCO2回収技術をビジネス化する、などが考えられます。
そして、その戦略を経営者の強い信念に基づき具体化をしていくため、GDXガバナンス態勢の整備が急務です。自社のルールとして地球に優しいDXガバナンス基本方針や実施基準等を策定し、企業内に徹底する必要があるでしょう。GDXを強力に推進するための委員会や組織体制を整備すべきです。気候関連リスクに対応するリスク管理プロセスの整備、CO2等地球温暖化ガスの排出量に関する3つのスコープ(①直接的排出、②電力・熱・導入時の排出、③その他の関節的排出)について、定量的な排出量把握・モニタリングプロセスを整備していくことが極めて重要になるでしょう。
これまで、企業の経営者は株主利益を確保し、顧客価値を創出することが優先的な目標でした。
これからは、意識を企業内から広く社会や地球環境へ、短期・中期目標から2050年カーボンゼロを見据えた長期的視点の目標へと広げ、地球温暖化をこれ以上進めないような「地球に優しいデジタル社会形成価値の創出」に向けた舵取りが経営者にますます求められるでしょう。
デジタル庁によるデジタル能力の集中化 ~ 行政第一線の主導による真のデジタル社会形成価値創出への第一歩
デジタル庁発足
デジタル庁が発足した。政府のデジタル能力をデジタル庁に集約し、民間企業からデジタル人材が大量に参画し、政府のデジタル能力を積極的に集中化している。
これは、新技術やイノベーションを積極的に取り入れ、また、多大な経費が必要となるシステムの投資対効果を追求しつつ、目的であるデジタル社会形成価値を創出するためには、必須な対応である。
成果を期待するには時期尚早ではあるが、デジタル大臣の監督の下、デジタル監のリーダーシップによる積極的な業務執行に依るところが大きいであろう。果敢なチャレンジを大いに期待したい。
デジタル能力の集中化、そして、行政第一線への浸透化へ
デジタル庁によるデジタル能力の集中化については、当面目指す姿としては正しいであろう。この取り組みにしっかり、確実に対応することが何より重要である。
しかしながら、これが最終目標ではないと考えるべきである。真のデジタル社会形成価値を持続的に創出し続けるためには、それらのデジタル化政策の実行主体である行政の第一線、すなわち、各府省の政策を立案し、制度を企画し、業務を実施する業務部門がデジタル能力を自ら獲得・保有して、国民等ステークホルダーへの行政価値創出に向けて、果敢にスピード感を持って推進することが求められる。
すなわち、デジタル社会形成価値創出に向けた、デジタル組織の集中化によるロケットスタートをひとまず実現し、さらにその先にある、デジタル能力が行政の第一線で当たり前のように発揮されている埋込(Embedded)型へと必然的に流れていくであろう。
グローバルなデジタル組織の成熟度モデル
グローバルビジネスの世界において、組織がデジタル能力を獲得し、最大限のデジタル価値を創出するようになるまでには、その組織の構造の成長過程について、自然な進化、成熟モデルが論議されてきた。
会社組織を起こし、事業が成長軌道に乗り始めるまでは、デジタル能力が企業の主要な事業を推進する業務部門(BU: Business Unit)に分散されていて、部門間の連携がないサイロ化された状態から始まるのが一般的である。
そこから、事業のスケールが拡大し、また、複数の事業を立ち上げるなど、成長軌道に乗せるために、必然的にデジタル化のスケールも拡大し、デジタル能力の拡大とともにデジタル能力を貴重な経営資源として適切な優先順位付け等最大限活用できるように、効率性を主眼にデジタル能力をデジタル化推進部門(IU: Innovation Unit)に集中させることになる。
さらに、顧客ニーズにタイムリーに対応し企業の価値を創出していくために、デジタル化推進部門はベストプラクティスを提供するセンターオブエクセレンス(CoE)機能を持ち、標準化調整機能を発揮するようになり、デジタル能力の発揮はビジネスの第一線が主体的に推進するような埋込型へと進化していく。
結論
デジタル庁の発足趣旨に沿って、政府はデジタル能力をデジタル庁に集中化してデジタル社会形成価値を早急に創出させるべきである。さらに、その先には、よりタイムリーに持続性をもって価値を創出し続けるため、デジタル能力を行政第一線の各府省へ浸透させ、デジタル庁はセンターオブエクセレンスの役割を担うように進化し成熟していくであろう。
ご参考:筆者が作成したガバナンス成熟度モデルの概要と事例情報を提供する資料を以下に添付致します。
デジタル庁は、価値創出モニタリングに基づくPDCA改善サイクルの実行と透明性の確保を
発足したデジタル庁の目標としている行政のデジタル化は、2001年のe-Japan戦略を経て、2006年のIT新改革戦略、2013年の世界最先端IT国家創造宣言、2018年からのデジタル・ガバメント実行計画など、ここ20年来の取組みである。
戦略や実行計画の一部は目標を達成して成果を得ている一方で、多くは失敗しては新たな戦略計画を設定する繰り返しであるとの指摘は否めない。
今回、「だれ一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を目指し、大胆かつ迅速に、また継続的にデジタル改革を推進するとのデジタル大臣のメッセージが発出された。新生デジタル庁の大志が実現されることを大いに期待したい。
ただ、ふと思うのは、これまでの「失敗と新戦略」の繰り返しの歴史と何が異なるのかである。今回も同じ「失敗と新戦略」を繰り返すことが図らずも予想されてしまう。
今度こそ成功させるために必要なのは何か。それは、PDCA改善サイクルによる失敗から学ぶ謙虚な姿勢であろう。
デジタル・ガバメントの業務遂行状況を振り返り、現場レベルでは、成功プロジェクトは何が良かったのか、失敗したプロジェクトは何が問題だったのか、導入後レビューをしっかり行うことである。また、幹部レベルでは、設定したデジタル戦略や実行計画について、実現した項目や実現できなかった項目についてしっかりと振り返り、その成功要因や課題を認識することだと思う。
失敗した項目については、その原因について「なぜ」の繰り返しによる真因へ深掘り(評価)を行い、その真因を取り除く対応策を考え、次なる戦略計画やプロジェクト計画に反映するという再発防止の対応が極めて重要である。これまでの失敗を失敗として正しく認識し、それらをしっかり反省し、次の成功に繋げる努力に向ける必要があるのではないか。
このように、新しいデジタル監が中心となって、「戦略策定、実行、振り返り、改善」というマネジメントのPDCA改善サイクルを効果的に回していくことがデジタル庁の最重要課題であろう。
また、デジタル大臣等のリーダーシップにより、国民等ステークホルダーのニーズを評価して、デジタル監等事務方へ進むべき方向性を示し、デジタル監、事務方の業務遂行をモニタリングするという、ガバナンスに関する「評価、方向付け、モニタリング」の価値創出サイクルの実践も重要である。特にモニタリングの結果をしっかりと国民等ステークホルダーと共有する透明性の発揮がデジタル庁の成功には欠かせない。
デジタル庁が取り組む政府情報システム ~ビジネスオーナーシップ態勢によるデジタル社会形成価値の創出を
デジタル庁が9月1日に発足する。
デジタル社会形成基本法における「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現」等の基本理念にのっとり、デジタル庁にはデジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることが、デジタル庁設置法において求められている。
国民等すべてのステークホルダーへの持続的なデジタル社会形成価値を創出するため、ガバナンス態勢の整備が喫緊の課題である。既に組織体制の整備やスキル人材の確保などに着手している。さらに、整備方針等のルール整備や情報システム整備・運用の業務プロセス整備など、態勢整備を着々と進めている。
ここで気になるのは、「デジタル」がネーミングの前面に出ているように、行政事務の目的が表層的なデジタル技術に偏重するようなマインドセットに陥ってないかということである。デジタルやITは手段であって目的ではないはずだ。真の目的は、デジタル技術を活用し各府省の電子行政を推進して、制度・業務を企画立案し、デジタル社会形成価値を創出することであろう。
クラウド化推進等のアーキテクチャ戦略(EA)や人に優しいユーザーインタフェース設計(UI/UX)、情報システム整備プロジェクトの管理(PM)など、デジタル庁が極めて重要な役割を担うことは論を待たない。しかしながら、デジタル社会形成という真の目的を果たすためには、当然ながら、各府省が主導的・主体的に行う制度設計や業務設計などがさらに重要である。デジタル庁のIT価値と府省のビジネス価値を共創(共同創出)し、政府全体をデジタル社会形成価値創出に導くべき。
そのためには、新設されるデジタル監とタッグを組んでハンズオンでデジタル社会形成価値創出に取り組むような、各府省の制度や業務のデジタル化を強力に推進するリーダーが必須である。また、これまで制度・業務を実現する情報システムについて、情報システム部門やベンダーに過度に依存していたことを改め、整備する情報システムの所有者・推進者として制度所管部門や業務実施部門等の職員によるオーナーシップの確立が急務である。
このように、府省が情報システムのオーナーシップを持ち、デジタル庁がサプライヤー責任を果たして、両者が車の両輪となってデジタル社会形成価値を共創すべきである。いや、むしろ、府省の電子行政を支える黒子であり、デジタル社会形成のための空気のような存在となって、府省の制度や業務ビジネス推進を積極的にサポートしていくのがデジタル庁の本来の姿かも知れない。
(注)ご参考:弊事務所ホームページの「サービス」に掲載のディスカッションペーパー「ビジネスオーナーシップITガバナンス」を参照ください。
政府情報システム調達に関する提言「ベンダーロックインから対話による価値共創へ」
政府情報システムの1者応札と囲い込みの実態
5月26日の日経新聞記事では「会計検査院は26日、政府が2018年度に行った情報システムの競争契約のうち7割が1事業者のみの応札だったと発表した。検査院は、受注したIT(情報技術)企業が独自仕様のシステムを開発し、他企業の参入を難しくするベンダーロックインの懸念を指摘」と報じている。
政府の情報システム「1者応札」7割 霞が関DX阻む: 日本経済新聞 (nikkei.com)
さらに、6月5日の日経新聞記事では「1者のみの入札では競争原理が働かず、価格の高止まりを招きかねない。検査院は、既存業者以外の業者の参入による競争性向上を図ることが必要と指摘している。」とも。
「政府の情報システム「囲い込み」実態 公取委が調査へ: 日本経済新聞 (nikkei.com)」
競争契約と随意契約の適材適所
果たして1者応札や随意契約が「悪」で複数者応札や競争契約が「善」なのか、と違和感がふつふつと湧き上がる。
確かに、情報システムの初期開発時は、競争入札等の公平、公正な競争環境により、コスト対効果に優れ、セキュリティ等しっかりリスク対応し、利便性等の多大な効果を実現する調達先を選定すべきである。
しかしながら、ひとたびベンダーとの価値共創の業務委託契約が開始されれば、以降は、政府職員とベンダーが同じ目的を共有するイコールパートナーシップによる協調関係、すなわち、国民等ステークホルダーへのデジタル活用による業務・システム価値を創出する生態系(エコシステム)に共に取り組むビジネスパートナーであるべきだと思う。それが、国民からお預かりした大切な税金を最大限有効活用して、国民等ステークホルダーへ最大価値を創出することだと思うからである。
政府職員とベンダーとの「対話」による戦略的随意契約関係の重要性
この際重要となるのは、職員が要件定義書を提示してベンダーが提案書を提出するといったリモートな一方的なコミュニケーションではなく、政府職員とベンダーとの対等な立場に基づく「対話」である。
初期開発を応札したベンダーとは、まずは技術的対話により職員の要件定義とベンダーの解決策の提案についてとことん議論し、プロジェクト計画について対話する。プロジェクト実施中は適時に進捗状況や課題等について対話する。最後にプロジェクト終了時に計画通りに職員およびベンダーがそれぞれの役割をしっかり果たしたか、その結果業務成果を発揮することができたか、課題は何か、課題への対応は可能か、対等な立場で議論(相互評価)する。
これらの対話により、後続の改修や運用・保守などの業務委託を引き続き進めることが最適であると合意すれば、後続プロジェクトを戦略的に当該ベンダーと随意契約する。合意が難しいようであれば、当該ベンダーとの関係をEXITして競争入札に舵を切る。
この際重要なのは、職員側のスキルと業務・システムのオーナーシップ(熱意)である。制度・業務部門職員の業務分析・業務プロセス設計スキルによる要件定義を主体的に行い、情報システム部門職員のアーキテクチャ設計スキル、UI/EXスキル、プロジェクトマネジメントスキル等によるベンダー提案について正しく評価し指示・コメントをする効果的な対話を行う。
ベンダーサイドについても、これまで、提示された要件に従って対応するのはもちろんのこと、それだけでは価値創出が不十分であり、EXIT判断されるリスクがある。そのため、まだ気がつかない潜在的な課題を見つけ出し、その対応策を積極的に提案するような、まさにビジネスパートナーとしての役割を果たしていくことが重要である。
このように、初期開発では競争入札による調達が基本であるが、改修や運用・保守局面では競争入札か戦略的随意契約かを職員とベンダー間の対話を経て判断する。
情報システムのライフサイクルにおける調達戦略
なお、システムを一定期間安定運用していても、内外の環境変化や技術の陳腐化の進展、サポート切れ対応などの理由により、制度・業務企画、システム企画、業務・システム整備、業務・システムの改修・運用・保守の一連の情報システムのライフサイクルの中で、上流に遡って更改や再構築(トランスフォーメーション)をする必要が出てくる。
毎年の改修や運用・保守契約の更新はこのような生態系パートナーとの継続・EXIT判断が行われるべきであるが、5年程度ごとの基盤システム更改、システム再構築等(DX)、制度や業務の抜本的改革(BPR)など、改革の度合いが大きいほど初期開発時と同様に、広く競争入札等により、公平・公正で最大価値を創出する調達とすべきである。
結論
政府調達の1者応札や随意契約が必ずしも絶対的な「悪」ではない。
初期開発において競争入札を経て応札したベンダーと共に、目的を共有する対等なパートナーシップに基づく協調関係により、整備された生態系を構成する情報システムについては、その改修や運用・保守などの後続業務について、引き続き戦略的随意契約により価値共創を持続させることがむしろ重要である。
現状の7割が仕方なしに一者応札や随意契約となっている受動的対応から、対話に基づき価値創出を目指し積極的に同じベンダーに業務委託を継続する戦略的随意契約への改革が必要である。